コラム

クールでマッド、ゆるくて大真面目な配達競争!サイクルメッセンジャー世界選手権レポート前編

クールでマッド、ゆるくて大真面目な配達競争!サイクルメッセンジャー世界選手権レポート前編

2016年ツール・ド・フランスがパリのシャンゼリゼで幕を閉じた2週間後、同じパリで、もう1つの自転車レースが開催されました。それがCMWC、つまりサイクル・メッセンジャー・ワールド・チャンピオンシップ!

普段は世界中の都市を自転車配達人として走り回るメッセンジャーたちが、年に1度一堂に介して、世界ナンバーワンを目指す大会です。争われるのは「サイクリスト」としてのスピードはもちろん、いかに効率よく確実に荷物を配達するか、という「メッセンジャー」としての技能。無駄のない配達ルートや配達順の計算、荷物を安全に運ぶための機材面での工夫、さらにはメカトラへの早急な対応…などなど、頭脳や経験のフル活用が要求されます。

第24回大会となった2016年のCMWCは、パリのヴァンセンヌの森で繰り広げられました。しかも、かつてツール・ド・フランスの最終フィニッシュ地であった伝説的自転車競技場「ラ・シパル」も、今回の世界大会のために特別に門が開かれたのです。

CMWC 2016

ヨーイドン、で地面に置かれた自分の自転車へと全力疾走。押し合いへし合いライバルたちともみくちゃになりつつ、愛車に素早く飛び乗って、コースへと走り出します。

各バイクの前輪に、白い紙が挟み込まれているのが見えるでしょうか?これは「マニフェスト」と呼ばれる、これから何をすべきかの指示書です。つまりコース上に12か所存在するチェックポイントの、どこで荷物を受け取り、どこへ配達するのか、そんなオーダーが事細かく書かれています。とりあえず走り出しながらこの紙を読むメッセンジャーもいれば、最初にじっくり読んでからペダルをこぎ出す慎重派も。

ちなみに、スタート時間は朝の10時のはずだったのですが、なぜか実際に始まったのは14時。どこからもブーイングは聞こえてこず、誰もがクール&リラックスで開始を待ちました。スピードを信条にすべき職業なのに、こういうところはのんびりしているようです。しかも、スタートエリアに自転車が置かれて準備万端、というところで出走表にミスがあったとかで、長~い点呼が始まってしまいました。争われるのは「サイクリスト」としてのスピードはもちろん、いかに効率よく確実に(以下略w)。

あまりにのんびりしすぎたせいで、地面に置かれた自転車のほうから、「パンッ!」という鋭い音が聞こえたことも。灼熱の太陽の下で、チューブ内の空気が膨張して、なんと破裂しちゃったのでした。慌てて修理を済ませて、さあ出走です。

CMWC 2016

今回の世界選手権に参戦したのは、なんと615人!

開催国フランスや近隣の欧州諸国はもちろん、アメリカ、カナダ、メキシコ、アルゼンチン、さらには日本や台湾からたくさんの脚自慢が集結しました。その中で日曜日の決勝レースへの出場権を勝ち取ったのは98選手(男性80人、女性18人)、荷台付き自転車カーゴバイク部門14選手(男性10人、女性4人)。

そんな選び抜かれた精鋭たちは、スタートと同時に、びっくりするほど猛スピードでペダルを回します。さっきまでの、リラックスムードは、一体どこに行ってしまったのか。あちこちで怒号が飛び、慌てすぎて落車する選手も。しかも約2時間、文字通りフルガス=全力で走り続けます。それぞれみんな、メッセンジャー事務所の看板を背負ってはいますけれど、基本的には個人競技。つまり、いわゆるロードレースのような、風除けになってくれるアシストもいなければ、先頭交代もありません。

むしろシクロクロスに近いかもしれませんね。シクロクロスが時々自転車を降りて担いだりするのだとしたら、メッセンジャーたちは時々自転車を飛び降りて、チェックポイントに立ち寄ります。クローズド・サーキットにあらゆるアクションが詰め込まれているのも、やはりシクロクスっぽい?加速と急ブレーキ。再スタートに再加速、そして再び急ブレーキ。見ている側も常にハラハラドキドキです。

CMWC 2016

走るのが速いだけではダメ。

CMWCでは、マニフェストの指示をよく理解して、素早く配達ルートを頭の中で描き出す能力が必須となります。

たとえば1つ目のマニフェストでは、8つのデリバリーが指示されました。どの順番で荷物を回収→配達するかは各自の自由。で、スタート直後に、直近の第4チェックポイントで荷物を回収しようと、出走者たちが大挙して詰めかける詰めかける…。「一番手っ取り早い場所から片付けよう」と思うのはみな同じだったようで、とてつもなく長い行列ができてしまいました。

ちなみにチェックポイントでは、1)自転車を飛び降りる(だいたいみんなその辺に投げ捨てます)→2)走ってデスクへ→3)こんにちはと挨拶→4)マニフェスト用紙を提示→5)該当箇所にスタンプを押してもらう→6)荷物を受け取る→7)ありがとうございましたと挨拶→8)、という一連の流れが待っています。

え?挨拶が必要なのかって?これは大会ルールにより、「チェックポイントの担当者には、常に、極めて礼儀正しく、親切に、感じよく、丁寧に振る舞うこと」と厳密に定められています。だって配達人という職業に、欠かせない大切な要素ですからね!だから長い行列でみんなイライラMAXでしたが、自分の順番が回ってくると、にっこり笑顔を作るのでした。

荷物の集配だけでなく、途中には「鍵ゾーン」という面白いチェックポイントもあります。そこでは自転車に一旦U字ロックをかけて、少し離れた場所でスタンプをもらってから、U字ロックを解錠しなければなりません。ロックしたふりをしてその場を離れると、「自転車泥棒役」のスタッフに、愛車を盗られちゃうという(笑)。

1つ目のマニフェストを全て終えると、新しいマニフェスト用紙が手渡されます。回によっては配達順番が指定されていたり、荷物を複数回収してから配達することを要求されたり。参加者全員が5つのマニフェストを行い、そこからトップ25人がさらにもう1つ、さらにトップ10がもう1つの計7マニフェストを行います。

今回の目玉は、なんといってもラ・シパル。

CMWC 2016

自転車競技場のバンクをぐるりと一周した先に、チェックポイントが設置されていました。

1896年に作られたこの屋外トラックは、1900年と1924年にパリ五輪が開催された競技場です。またツール・ド・フランス最終日の舞台がシャンゼリゼ大通りへと移る前年度まで、ツールのフィナーレはこの小さなヴェロドロームで行われていました。世界中の自転車オタクにとって憧れの地です。なにより、史上最強の自転車選手、エディ・メルクスのツール5勝を全て見届けてきた場所なんですから!

21世紀になってからはずいぶんと老朽化が進み、一時は閉鎖……さえも検討されたそうです。幸いにも「ラ・シパルを救う会」の積極的な働きかけにより、補修工事が行われることに。そして約1年前、世界でも唯一の、繋ぎ目のない美しいセメントバンクがお披露目されました。

ちなみにパリ市の正式なスポーツ施設であるラ・シパルは、通常は、自転車連盟に登録したライセンス保持者じゃないと走ることが出来ません。また、パリ市に正式に許可を申し入れないと、写真撮影さえも出来ない場所なんです…。今回はCMWCの貸し切りだったので、嬉しいことに、自由に走ったり撮影したりできましたよ!

(後編に続く。)

Text and Photos: SPORTNIXE.COM