コラム

サイクルメッセンジャー世界選手権 クールでマッド、ゆるくて大真面目な配達競争!後編

サイクルメッセンジャー世界選手権 クールでマッド、ゆるくて大真面目な配達競争!後編

メッセンジャーバッグを背負ってシングルスピードを駆る…。
だけがサイクルメッセンジャーではないんです!

荷台付き自転車、いわゆるカーゴバイクの配達人だって存在します。しかも、メッセンジャー業界においでは、カーゴバイカーは「大型トラックの運転手」的存在。つまり操るマシーンが大きく、輸送能力が格段に高い上ゆえに、お給料も良い、とのこと。
「その代わり、労働も過酷だけど」と言う声が聞こえてきそうです。なにしろ荷台付き自転車部門のレースは、常に建築用コンクリート2つを積んで走る、というのがデフォルトなんですから!

サイクルメッセンジャー世界選手権は前編はこちらから

与えられるマニフェストも、「家畜用干し草の束を運ぶ」だとか、「テーブル用天板を運ぶ」だとか、とにかく肉体的に重労働なものばかり。干し草2束+コンクリートブロック4つという超ヘビーな荷物を積み上げて、力まかせにペダルを踏みつづける細身の女性参加者も見られました。

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サイクルメッセンジャーの矜持を感じるルール
大昔のツール・ド・フランスにも通じる光景がそこに。

CMWC(サイクルメッセンジャー世界選手権)のルールブックには、次のような一文が厳密に記されています。

「パンク、もしくはメカトラブルが発生した際には、その場で、他人の協力を一切受けずに、修理作業を行うこと」

プロフェッショナルなロードレースのように、ニュートラルサービスやチームカーのお世話になることも、チームメートからバイクを受け取って飛び乗ることもできません。だって実際の配達中にパンクが起こったりしたら、どんなに冬の凍える日だろうが、その場で速やかに不具合を修理して、出来る限り早く配達作業に戻らねばならないのですから。これぞサイクルメッセンジャーの掟。

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写真内で必死にパンク修理に勤しむのは、2つ目のマニフェスト終了時点で2位だった選手です。ポンプを押しながら「このくそったれなパンクのせいで、俺の大会も終わりだぜ!」と叫んだことは言うまでもありません。その直後に駆け込んできた選手は、やはりパンクしたナット式の後輪を外そうと、アーレンキーを穴に突っ込みます。しかし、その穴に、小石がぴったり嵌り込んでいたという悲劇……。こんな彼が取った力技は、自転車を持ち上げて、リアホイールのハブのすぐ脇をフェンスにガンガン打ち付けるというもの。悪戦苦闘の果てに、なんとか小石は飛び出してくれましたが、トップへの夢は断たれました。

ちなみに、ツール・ド・フランスも大昔は、CMWCと同じように、修理作業は全て単独で行わねばなりませんでした。最も有名な逸話といえば、1913年大会、ピレネー・トゥルマレ峠からの下りでウジェーヌ・クリストフがフロントフォークを折ってしまったもの。その後は自転車を抱えて山道を10㎞以上を歩き、鍛冶屋を見つけて工房を借り、たった1人でフォーク溶接作業を行い…、首位から4時間以上遅れてステージ完走を果たしています。Fのつく用語を叫び、頭をかきむしりながら、(時には愛車に蹴りを入れながら)、パンクを嘆くメッセンジャーたちも、きっと103年前の大選手と同じように絶望的な気たのだろうなぁ、と心中お察しします。

国を越えてメッセンジャーたちが交流を深めるイベントでもあるのだ!

レースが始まる前も、レースの最中も、レースが終わった後も、コースのすぐ側にはこんな光景が広がっています。

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予選落ちした選手や、単に応援に駆けつけた家族や友達は、ハンモックに揺られながら、もしくは木陰に直接大の字になって、ゆるりと夏の午後を過ごしていました。

世界中のメッセンジャーたちに気軽に集まってほしい、との思いから、パリ大会の開催委員会は特設キャンプ場を3つも設置しました。仮設トイレやシャワーも用意され、若いメッセンジャーたちには大好評。どこの大都市も同じですが、ホテル連泊は高くつきますし、しかも自転車を部屋に持ち込めるホテルはなかなか見つかりませんからね。なによりテントを張って、夜ふかしできるなんて、なにやらサマーキャンプみたいで楽しそう!

そもそもCMWCとは、レースである前に、世界中の同業者と交流を深めるイベントという意味合いが強いようです。メッセンジャーとしての技能を磨き合い、ライフスタイルを分かち合う場。ちょっとした就活の場でもあるようでした。
「ニューヨークに長期に遊びに行った時は、ちょっと働かせてよ」
「OK!」
みたいな会話が交わされていることでしょう。

最も効率よく、確実に荷物を運んだのは、デンマーク出身の27歳!

7つのマニフェストを最速で終え、2016年サイクル・メッセンジャー・ワールド・チャンピオンシップの王者に輝いたのが、ヨハネス・キリスペルジャーさんです。デンマーク出身で、現在はドイツ・ベルリンでメッセンジャーとして働く27歳。

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彼の所属するメスパック・ベルリンは、優勝者に加え3位と6位を輩出するという、とてつもないエリートメッセンジャー事務所でもありました。

それにしても、サイクル・メッセンジャーレースに、フィニッシュラインというのは存在しないんです。マニフェストを完遂して、スタンプが押された書類を提出し、タイムを記入してもらう、これでゴールです!

かくもクールで、ゆるく、大真面目だけどのんびりした世界選手権を観戦して、自転車の楽しみ方の深さを感じられた一日でした。

Text and Photos: SPORTNIXE.COM