コラム

[走れ!自転車天国]ツアー・オブ・ニュージーランド編 その8

ツアー・オブ・ニュージーランド編 その8

フォトグラファーの下城英悟です。ツアー・オブ・ニュージーランド編、今回は「その8」です。

前回までの「自転車天国」はこちら
ツアー・オブ・ニュージーランド編 その7
ツアー・オブ・ニュージーランド編 その6
ツアー・オブ・ニュージーランド編 その5
ツアー・オブ・ニュージーランド編 その4
ツアー・オブ・ニュージーランド編 その3
ツアー・オブ・ニュージーランド編 その2
ツアー・オブ・ニュージーランド編 その1

ツアー・オブ・ニュージーランドはレースではありませんが、サイクリングの魅力の一つが“レース”であることをよく知っているNZのサイクリストたちが運営することもあり、その要素を完全に排除するような、そんな野暮はありませんでした。

あえて“野暮”などといったのには、理由があります。
もとより自然豊かなNZの大地を存分に味わえる魅力的なルート設定で、ファンライドでも十分に楽しく、ツアーの走り方は基本的に各人に委ねられ至って自由なのですが、個々人のタイムもしっかりと計測されています。つまり、望むのならば、時間と、そして自分自身とのレースという苦闘も選び取ることもできるのです。

実際、参加者には歴戦のホビーレーサーも多く、自身との戦いが目的と見える猛者どもがペロトンを形成し、互いに先頭交代で切磋琢磨しながら、タフな強度で疾走していきます。私自身もレーシーなライドは嫌いではないので、幾度かそういう集団に潜り込み、汗を吹き出し乳酸を感じながらゼエハア走りました。日本から来た私にとって、非日常の美しさを湛える風景の中、限界を押し上げながら、同じ苦しみを共にするサイクリストたちと疾駆するのは、かけがえなく楽しい時間でした。こういう体験は、タイム計測というレースの要素を少しでも残してあるから生まれる感動だと思います。削ってしまっては、この感動はない、とそういった意味での“野暮”でした。

村上春樹さんのエッセイに出てきたあるマラソンランナーの言葉で、印象的なものがありました。

「Pain is inevitable,Suffering is optional.」
訳せば、痛みは避けられないが、苦しみは己次第、といった意味でしょうか。

サイクリングは、スポーツと旅が混ざり合った不思議な行為だと、常々思っています。

スポーツは、限界を越えるために限界を知らなければなりません。旅も楽ばかりでは味気なく、山や谷、荒れた道や、暑さ寒さの“苦”があってこそ美しく濃縮されるような気がします。

人生楽ありゃ苦もあるさ、だから楽しい人生なんだよ、ヒヒヒ!と、前走者の血管浮くふくらはぎから、尻尾を巻き上げたサソリがこちらを睨んでいます。

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走れ!自転車天国の過去のコラムはこちら!
https://www.curucurucycle.net/news/column/cycle-heaven

プロフィール

下城 英悟(シモジョウ エイゴ)
Photo&Videographer/Director。1974年長野県上田市生まれ。2000年より写真と映像兼務のフリーランスカメラマンとなり、各種制作業務請け負う。2010年、神保町にてスタジオGREENHOUSEを設立。自転車をこよなく愛し、専門誌への寄稿、撮影も多数。

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