コラム

[自転車の歴史]空気入りタイヤという大発明

空気入りタイヤという大発明

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今では当たり前すぎて誰も驚かないが、約130年前までのタイヤには空気が入っていなかった。自転車用だけだろうって?とんでもない。クルマ用だって同じだ。空気入りタイヤが発明される前は木製車輪、または中身の詰まったゴムを履いた車輪で走っていた。1888年にダンロップ氏が空気入りタイヤを発明してから砂利道でも石畳でも路面からの振動が抑えられ、クルマも自転車も飛躍的に乗り心地が良くなった。空気という目に見えない物が乗り物を一気に実用的にしてくれたのだ。一見地味な発明のようだが、よく乗る人からは大いに感謝された。

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元獣医師ジョン・ボイド・ダンロップ氏の紹介をする前に、もう一人、どうしても紹介しておきたい人がいる。チャールズ・グッドイヤー氏は1800年に生まれ1860年に亡くなった。亡くなった際には借金が20万ドルあったという。現代に続くタイヤメーカー・グッドイヤーは1898年設立で彼と資本関係はないが、チャールズが発見して1844年に特許を取ったゴムの加硫法は世の中すべての人々が恩恵を受けている。1493年にコロンブスがヨーロッパへゴムを紹介してから長らく科学的に研究されることもなく、ゴムは劣化が激しく脆くて実用的でないと思われていたが、チャールズがゴムの可能性を信じて研究を続ける内に、偶然にも溶かしたゴムに硫黄を加えると硬化し弾性が増すことを発見。ようやくタイヤ資材としても実用的な物になった。彼が偉いのは実験中に有毒ガスが発生して死にかけても諦めなかったことだ。

チャールズの不断の努力があってこそ、ジョンが考案した空気入りチューブをキャンバス生地で覆ったマミータイヤは生まれた。マミーとはミイラのことで、包帯をグルグル巻きにしたミイラのような外見のタイヤだったことに由来する。

バルブからゴムチューブに空気を入れ外側を布で覆ってタイヤにすることを着想したのは、彼が元獣医師で牛馬用の太い聴診器を常に使っていたからとする説が有力だが真偽は不明だ。いずれにせよ息子が乗る三輪自転車で実験を重ね、空気入りタイヤを完成させた。実は1845年にロバート・ウィリアム・トムソン氏が馬車用の空気入りタイヤで特許を取っていたが、時期尚早だったのか実用化されず休眠状態になっていた。ジョンはタイヤ製造会社の設立後にトムソン側と法廷で争うことになる。彼の名も現代のタイヤブランドに残っているが、生前は自らの発明から大きな利益を得ることなく1921年、失意の内に亡くなった。

チャールズ、ジョン共に生前は報われなかったが、偉大な発明家として名を遺しえた。これからはタイヤを見るたび彼らの名を思い出していただきたい。

前回までの「自転車の歴史コラム」はこちら
第7回 コンポーネント(コンポ)の誕生
第6回 ツール・ド・フランス黎明期の自転車とは
第5回 自転車文化は一日にしてならず
第4 回 マウンテンバイクがやってきた
第3回 ジュニアスポーツ車は永遠に
第2回 ジュニアスポーツ車が遺した技術
第1回 ジュニアスポーツ車とは、いったい何だったのか?

内海 潤内海 潤(うつみ じゅん)NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長株式会社エクスゲート 代表取締役東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」がある。