コラム

[自転車の歴史]折りたたみ自転車のルーツと今後のポテンシャル

折りたたみ自転車のルーツと今後のポテンシャル

折りたたみ自転車は歴史が浅いと思っている方も多いが、実は100年前から存在していた。その時代の最先端技術が軍主導で開発され、それが後に民生化するケースは枚挙にいとまがないが、折りたたみ自転車は第一次世界大戦で、まずイタリア軍のベルサリエリ部隊に配備され、兵士たちは背中にフレームを半分に折りたたんだ自転車を担いで移動、主に偵察や警備の用途で活動した。第二次世界大戦では連合国側の空挺部隊にイギリスBSAの折りたたみ自転車が配備されて自転車を背負ったまま落下傘で降下し、フランスにあったドイツ軍の対空レーダー調査を実際おこなった。

戦後は軍用の無骨なデザインが嫌われ、折りたたみ機能に注目が集まることもなく、生産が激減したが、ここ日本の小さなメーカーが驚くべき折りたたみ自転車を開発して欧米に輸出していたことをご存知だろうか?志村精機という会社がpuppy(パピー)号と銘打って発売した折りたたみ自転車なのだが、昭和25年の生産開始当時、日本は占領下だったのでサドルにはMADE IN OCCUPIED JAPANとある。実物が北の丸公園にある科学技術館2階自転車広場に展示されていて見学可能なのだが、宇宙人が飛来して金型を置いていった訳でもなかろうに、なぜ急にハイレベルな折りたたみ自転車が日本で誕生したのか全く謎なのだが、これが実によく出来ている。

IMG_0288
昭和25年に登場した志村精機性puppy(パピー)号

突然変異なのか、焼け野原からの捲土重来を志す企業スピリットなのか。但し、この後は再び長い沈黙が続く。

グッと時代が下って1980年代に入ると、現在に続く折りたたみ自転車が誕生する。アンドリュー・リッチー氏が手がけるブロンプトンやデヴィッド・ホン氏のダホン、折りたたみではなく分解式だがアレックス・モールトン氏のモールトン。1990年代に入るとライズ&ミューラーのバーディー(BD−1)がデビュー。日本でも近年、独自の折りたたみ自転車ブランドが次々にデビューしている。いずれも小径タイヤを履き、コンパクトに収納でき、クルマや電車での輪行も楽々。ロッカーに入れて保管することもでき、使われ方やデザインもアイディア次第で今後まだまだ進化しそうだ。先日、自転車ツーキニストの疋田智氏とトークイベントをした際にも、「今後、楽しみなのは小径折りたたみ自転車だ」、という結論で考えが一致した。筆者も教鞭を執る東京サイクルデザイン専門学校の卒業制作展では毎年、小径折りたたみ自転車を含むユニークな自転車たちが披露されて、自転車の可能性には限界がないことを教えてくれる。街角で小径折りたたみ自転車を素早く組み立て、颯爽と乗る人が増えることを期待している。

最後にお願いがひとつ。1万円以下といった安い折りたたみ自転車に乗って怪我をする人が後を絶たない。折りたたみ自転車を買うなら10万円以上の物に乗っていただきたい。

前回までの「自転車の歴史コラム」はこちら
第8回 空気入りタイヤという大発明
第7回 コンポーネント(コンポ)の誕生
第6回 ツール・ド・フランス黎明期の自転車とは
第5回 自転車文化は一日にしてならず
第4 回 マウンテンバイクがやってきた
第3回 ジュニアスポーツ車は永遠に
第2回 ジュニアスポーツ車が遺した技術
第1回 ジュニアスポーツ車とは、いったい何だったのか?

内海 潤内海 潤(うつみ じゅん)NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長株式会社エクスゲート 代表取締役東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」がある。