コラム

[自転車の歴史]サドルの歴史

サドルの歴史

 自転車のサドルはエンジン(人)を支えるマウントパーツである。パワーを極力ロスせずに駆動系へ伝達するための重要なパーツだ。座面を硬くすれば力を効率よく伝えられるが、不快な痛みも引き起こしかねない。ロングライドを楽しむために痛みは少なくしたい。二律背反する要望を同時に叶えるサドルとは? 探求の歴史は自転車の歴史と共に始まった。結論から先に言うと理想的なサドルとは、その人に合ったサドルのことだ。レビューは参考になるが必要十分ではない。実際に使ってみて評価をくだすことになるが、合わないサドルはヤフオクで売ろう。別なのを探している人が多く意外な高値で売れるはずだ。

 サドルの歴史において避けては通れないブランドがある。1866年創業の英ブルックスだ。元々馬の鞍(くら)や皮革製品を製造していた会社だが、1878年にブルックス氏の愛馬が不幸にも亡くなったことが契機となり、自転車のサドル製造へ乗り出したところ、乗り心地の悪いサドルに閉口していたサイクリスト達に驚喜されて大成功した。今年は創業150年に当たるが、その名声は現代まで続いている。革サドルのメリットは使っている内に形状が変化して馴染んでくることだ。デメリットは革ゆえにメンテナンスの必要があること、軽量サドル全盛の中にあってバネ付きモデルは特に重量があることなどだが、趣味で乗る大人のサイクリストには全く問題がない。

 日本のファンも多いロードバイクブランドが幾つもあるイタリアでは、レース用サドルの開発が盛んだ。Selle(セッレ)で始まる伝統的なサドルメーカーが数多く存在する。Selleとは馬の鞍の意味だが、日本では誤読の「セラ」で広まってしまった。イタリア語はカタカナ表記しやすい言語だが、時々おかしな和製イタリア語が定着している。ジロ・デ・イタリアも現地では通じない。レース用と言えば300gを切るサドルは当たり前で中には200gを切る軽量サドルもある。最近では100gを切る超軽量のオールカーボン製サドルすら登場した。

 日本が誇るマホガニーバイクSANO MAGICには、やはりマホガニーサドルが鎮座している。さぞ痛いだろうと思っていたが愛用者曰く、全く痛くないのだそうだ。サドル単体ではなく、バイク全体がしなることで力を伝えつつ不快な痛みを引き起こさないのだろう。憧れるが、入手は夢のまた夢だ。

 普段、椅子やソファにしか座っていない人が極小面積のサドルに全体重を預ければ鬱血して痛くなるのは当然だ。サドル、ペダル、ハンドルの3点に荷重を分散させるポジションを取って乗ることで、ある程度痛みは軽減できる。あとは自分に合う物に出会うまでサドル探しの旅を続けるしかないが、骨盤サイズを測ってくれる店や複数のサドルを体験できる店もあるので利用して欲しい。

前回までの「自転車の歴史コラム」はこちら
第12回 ペダルの歴史
第11回 自転車の駆動方式について
第10回 フレームの歴史
第9回 折りたたみ自転車のルーツと今後のポテンシャル
第8回 空気入りタイヤという大発明
第7回 コンポーネント(コンポ)の誕生
第6回 ツール・ド・フランス黎明期の自転車とは
第5回 自転車文化は一日にしてならず
第4 回 マウンテンバイクがやってきた
第3回 ジュニアスポーツ車は永遠に
第2回 ジュニアスポーツ車が遺した技術
第1回 ジュニアスポーツ車とは、いったい何だったのか?

内海 潤内海 潤(うつみ じゅん)NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長株式会社エクスゲート 代表取締役東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」がある。