コラム

[くるくる写真塾]第6回 アングルのはなし

第6回 アングルのはなし

今回は、アングルのお話をしましょう。“角度”を意味するのはご存知の通りだと思いますが、そこから派生した写真用語における“アングル”とは、「被写体に対してカメラレンズを向ける角度」のことを指します。撮影アングルの決定は、画作りの大きな比重を占め、モノ、ヒトを問わず、仕上がりに大きな影響を及ぼします。とても大事な“角度”なのです。極端な言い方をすれば、アングル次第で被写体の印象を変えることさえでき、よく言う「奇跡の一枚」なんてのも、このアングルが関係していたりします。

前回までの「くるくる写真塾」はこちら
第5回 ロケーションハンティング
第4回 ボケとピントのはなし~その2~
第3回 ボケとピントのはなし~その1~
第2回 “自撮り”派サイクリスト
第1回 ようこそ「くるくる写真塾」へ!

アングルについて、簡単な例として、わが国が世界に誇る怪獣映画「ゴジラ」で説明しましょう。なぜに突然ゴジラかといいますと、特撮映画というジャンルは、写真撮影のヒントがたくさん隠されているから、とご理解ください。

元も子もない言い方ですが、ゴジラは精巧にできた着ぐるみです。私も大好きなのでそんなこと言うのは不本意ですが、ここは涙を呑んで着ぐるみとします。しかし、スクリーンを観る私たちは、映し出される着ぐるみのゴジラを「巨大な怪獣だ!」と感覚的に認知して、あろうことか映画に没入したりしています。なぜか? なぜ怪獣にみえるのか? その秘密は、まさにカメラアングルにあります。

ゴジラの登場/対決/破壊シーンの多くは、地面すれすれのカメラ位置で撮影されています。所謂ローアングルです。ほぼ地面に張り付くようなカメラ位置なので、超ローアングルとも言えるでしょう。映画の世界では“仰角”と言ったりもします。そうです、ここで“アングル”の登場です。ゴジラをゴジラたらしめるために、カメラはゴジラの表情を、その一挙手一投足をローアングルから追いかけます。まるでゴジラの挙動を怯えながら見守る、小さく弱い人間の視点です。ゴジラを問わず、SFモノの撮影で、ローアングル撮影は常套手法となっています。では、どんな効果があるのでしょう?

ここで毎度のちょっと脱線です。聞きかじった認知行動科学、心理学のおはなしを。私たち人間は、五感を駆使してこの世界の空間を把握しています。特に二つの目、視覚が、空間認知に大きな役割を担っています。生物は進化の過程で、視覚から得た情報を脳で整理し、空間を把握する力を磨いてきました。

高く大きいものを見るときは“下から(ロー)”見上げ、低く小さいものは“上から(ハイ)”見下ろし、空間の遠近、奥行きなどをはかります。

視覚から得られた情報は、ある種のパターンとして記憶され、人間のすばやい空間把握を助けているそうです。ときに視覚情報先行で条件反射的に空間把握をして、無意識に行動することもあるといいます。いろいろ条件が揃うと、皆さんも良く知る錯覚が起きたりするわけです。二次元的な平面だと、条件要素が少ないので錯覚を作りやすいそうで、だまし絵などはその最たるもの。つまり、同じく二次元表現の写真もまたしかり、錯覚を起こしやすい。

さて、ここに撮影における“アングル”決定のキモが隠されています。

錯覚を起こすほどの仕掛けではありませんが、画作りにおいて何かを高く見せたかったら見上げるアングルを使え、ということです。ゴジラを大きく見上げる視点で撮影すれば、たとえ着ぐるみであろうと巨大怪獣として画作りすることができるわけです。

逆に、ゴジラを小さなトカゲ程度にみせたければ、カメラ位置はハイアングルにセットし、上から見下ろせばよいのです。見下ろす視点、これを撮影用語で“俯瞰”と呼びます。

さらにさらに、着ぐるみゴジラを、人間と同じ目線で撮影すると、セットなど相当工夫しないと着ぐるみそのものとして写ります。視覚的に大きさや圧迫感を感じないと、心理的に親近感が湧く、という心理学のロジックもあり、逆手にとればゴジラを友達のように感じさせる画作りが可能です。

ちなみに、人の目線のカメラ位置で撮影することをアイレベルとよびます。

ゴジラの話に終始しましたが、被写体をヒトやモノ、風景に置き換えても、おおむね同じことが言えます。アングル度合いを変えれば、演出意図にそった画作りが出来ますので、まずはアングルを意識することから始めてみましょう。ローアングル、ハイアングル、アイレベル、まずはこの3つから。ぜひ実践、復習をよろしくおねがいします。

<一口メモ>

泥まみれで行なわれる激しい自転車レースがあるのをご存知ですか?

シクロクロスレースといって、ヨーロッパは北部フランスやベルギー発祥で、じつは100年以上の歴史があります。本来はロードレースのオフトレとして冬期の休耕農地で行われてきたこともあり、悪天候や泥まみれ必至の自転車競技として進化しました。

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競技として非常に過酷ですが、見方を変えると大の大人が泥んこになって遊べてしまうせいか、欧米では今日でも大変な人気があります。近年その波は日本にも到達しています。国内最高峰のシクロクロスの祭典として、毎年冬、長野県の野辺山の牧場で開催される野辺山シクロクロス。国内唯一のUCIカテゴリーレースで、近年にわかに盛り上がっています。

写真はその一コマ。シクロクロスは「泥」がキーワードになるので、自転車が駆け抜け跳ね上げる泥を写真に拾い込めるローアングルが必須です。周回レースなので応援も熱がこもります。うまく両方を捉えることができましたが、自分も地べたすれすれのローアングル。泥まみれなのは言うまでもありません。

プロフィール

下城 英悟(シモジョウ エイゴ)
Photo&Videographer/Director。1974年長野県上田市生まれ。2000年より写真と映像兼務のフリーランスカメラマンとなり、各種制作業務請け負う。2010年、神保町にてスタジオGREENHOUSEを設立。自転車をこよなく愛し、専門誌への寄稿、撮影も多数。

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