コラム

[くるくる写真塾]第9回 まだ見ぬ道へ。

第9回 まだ見ぬ道へ。

先日、とある自転車の風変わりなイベントの写真を撮るべく、日本各地を回ることがありました。
日本のことをほとんど知らない総勢21人の外国人サイクリストが、2週間かけて日本を旅するという、なかなか途方も無いイベントで、総距離は3000km近くにも及びます。国籍も世界12カ国、北欧からアジア圏までと多様ですが、一様に日本語は話せません。主催者もスタッフにも日本人がいないので、色々な意味でとてもタフな旅になることは予想できます。

ただ、彼らは皆、日本をサイクリングすることに、とても強い情熱を抱いていました。私もその過激さと、熱意に当てられて、どうにも興味を惹かれ、思い余って撮影取材を敢行したわけです。

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異国の地・日本を、自転車で冒険する彼ら外国人サイクリストが見る景色、体験にとても興味が湧きました。願わくば自転車で参加したいところでしたが、都合今回は自動車にて。同じ旅を共有するとは言えないまでも、レンズを通して少しでも冒険に迫れたらと考えました。
そして、自分には住み慣れ、知ったような気でいる“日本”を、彼らはどう見るのだろうか?

日本各地に散らばった11箇所のチェックポイントを通過する義務以外は、複雑なルールはありません。食事、宿泊、トラブル対処等は、全てセルフサポート方式で、DIY精神が貫徹されています。ルートも各自がバラバラで、個性が出ます。そんな彼らを、リアルタイムのGPS情報を頼りに捕捉して、先回りや後追いしながら撮影していきます。

取材開始当初、GPSの誤差や不調もあり、ライダーを見つけられず、丸一日取材して一人のサイクリストもキャッチできない日さえありました。長野岐阜県境の山間部深くまで分け入ったのに撮れ高ゼロで東京に戻る…など、ずいぶん落ち込む場面もありました。

そんな時、ただ落ち込んでいても仕方ないので、いつ彼らが現れてもいいように常にカメラを傍に置きながら、絵になる風景を渉猟することにしました。神経を張り詰め、目は皿のようにして異国のサイクリストが見るかもしれない美しい日本の風景を探して、車を走らせました。

四国の山間部でも、ライダーを見つけられず、同じく絵になる道、風景を探しました。四国は何度となく訪れていて、一部ですが遍路道なども歩いた経験もあり、少しは知ったような気でいました。まがりなりですがカメラマンなので、絵を切り抜く、瞬間を切ることには、良くも悪くも慣れてはいます。その慣れをもって、美しい風景を切り取ろうとしました。

ところが、誰もいない四国の山道でカメラを構えながら、そこに見知らぬ美しい景色がありすぎることに慌てました。慣れや惰性で写真を撮るには、失礼に値するような自然の造形と、時間をかけた人の営みのコントラストに、いちいち嘆息していました。知らない道や風景を、知らない光が照らし出し、美しさが溢れていました。知らないことがこんなにあるとは…。

思えばカメラマンとして、知ったかぶりがすぎました。当然のことです。そして、はたと気がついたのは、異邦人のサイクリストを追いながら、彼らが走る道の先、追い求める日本の美がなんなのか、逆に提示された気がしました。

「写真で観たり、本で読んで感動した日本の本当の道を走りたい。文化に浸りたいんだ。」
と、主催者のフランス人エマニュエルが言っていたことを思い出しました。そして、日本に暮らす自分でさえ知らない、誇るべき美しさがこの国には溢れているようです。カメラと自転車で出かけなければいけない理由を、異邦人のサイクリストから学んだ初秋でした。

前回までの「くるくる写真塾」はこちら
第8回 旬の写真を味わう
第7回 ライドイベントのススメ
第6回 アングルのはなし
第5回 ロケーションハンティング
第4回 ボケとピントのはなし~その2~
第3回 ボケとピントのはなし~その1~
第2回 “自撮り”派サイクリスト
第1回 ようこそ「くるくる写真塾」へ!

<一口メモ>

1000m以上の古い峠越えをいくつも抱え、四国を東西に横断して走る国道R439。通称「ヨサク」などと呼ばれて、旧道好きに親しまれています。自転車で走るにはかなりタフな道行きとなりますが、美しい谷あいの景観は日本の原風景の面影をとどめて、サイクリストにはとても魅力的です。写真は、徳島県最高峰1955mの剣山に向かう道の途中にて。剣山にはかつてはスキー場もあったそうです。徐々に翳って、強くなる西陽が山の表情に強い陰影をあたえて、夕間詰めの寂しく、美しい時間をつくっています。人の営みを支える道と、人に幸いも災いももたらす谷川の自然が、寄り添って剣山の高みに延びていきます。

風景写真は、人工物と自然物の対比や、被写体の性格を考えて画面のバランスを作ることで、写真が語りかける物語が違ってきます。そして、光はいつでも表現のカギになりますので、

天気や時間帯も意識して撮影してみましょう。