コラム

[くるくる写真塾]第10回 “壁”に対峙する。

第10回 “壁”に対峙する。

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今回は、少々お堅いスタートですが、悪しからず、お付き合いをお願いします。
技術の進化に担保され、たった1枚の写真が伝播する速度や広がりは、10年前とは比較にならない世界になりました。インターネットの普及、SNSの大隆盛もあり、情報メディアとしての写真のあり様は激変して、それは私たち写真の撮り手や受け手の感受性にさえ変化を生んでいるように感じます。

不肖ながらフリーのカメラマンとなって15年以上の時が経ちますが、思えば社会における写真表現のあり方の激変期と、自分の修行時代は、奇しくも重なりました。私が、90年代から2000年初頭に得た、ざくっと20世紀の100年をかけて培われたフィルム撮影の技術は、この10年であっという間に終焉を迎えました。アナログは瀕死となり、置き換わった機材や撮影データのデジタル化の波は、衰え知らずのまさに怒涛でした。

私事でいえば、学生時分から親しみ、フリーランスになってもしばらく続けていた自家現像や暗室作業は、日々速さを要求される仕事の流れの中、敢え無くラップトップPCに置き換わり、置き去りにせざるを得ないものになっていきました。旧世界の遺物とも言いたくないし、意地もあってアナログ機材もろもろは持ち続けてきましたが、この10年稼働がないのは、事実です。不甲斐ないともいえず、大きな流れの中で致し方もなく。

まさに産業革命とはこうしてやってきたのかもしれません。ものの10数年前までの写真のプロセスというのは、フィルムを感光撮影して、業者に現像、プリントに出し、さらに人に見せるなら出版、または写真展を企画する。そんな手順や段階がありました。いまやそういったプロセスの8割以上は、自己完結できるデータに置き換わり、思い立った当人がネットに乗せて迅速に発信伝播もできます。

写真の誕生から200年ほどが経ちますが、デジタル技術の革新は、写真という文化体系を、新しいステージに引き上げたと言えます。善し悪しの話ではなく、実際、何もかも変わった印象があります。写真を生業とするものとしては、この10年、技術追従と環境適応を図らなかった日はないかもしれません。

そうはいっても不思議なのが「写真」です。さいわい撮る行為の本質には、フィルム時代から大きな変化はない気がしています。むしろ、撮影行為というかつては幾ばくか財を必要とした行為の門戸が大きく開かれ、カメラとPCだけがあれば、好きなだけ一瞬の恍惚たる美を追うことが出来、誰しもがこの自由な写真表現の世界を開くことが出来るようになっています。実は、かつてないこの世の春を迎えつつあるのが、写真芸術の世界と言えるかもしれません。

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さて、大風呂敷を広げたところで、今回のお題。
古今東西、写真家たちを惹きつけて止まない被写体、“壁”です。最近もSNSのインスタグラムなどで、壁をテーマにした写真の投稿が揺るがぬ人気を誇っているようです。
では“壁”がなぜ魅力的なのか?さっそく紐解いてみましょう。

まず、壁というのは二次元的、つまり平面的な風景です。平面というのはそもそも二次元表現の写真と、すこぶる相性が良い被写体です。また、壁はその表層に、年月を経て刻まれた歴史や文化、固有のマテリアルの質感、色を持っていて、そこに被写体としての個別の物語が成立しています。さらにその前を人や動物、自転車が行き交うと、生命の営みを投影し、さらに存在感ある被写体となります。

気になった壁の前で、フレーミングを決めて、シャッターを切らずにしばらくその壁と対峙してみると、いろいろな情景が浮かび上がり、多様性を感じることができると思います。そうはいっても初めは退屈にしか思えないかもしれません。ただ、何事も、“壁”を乗り越えた先に、新たな世界が開かれているものです。

そのための定点観察、是非皆さんもやってみることをお勧めします。

たかが壁、されど壁です。

前回までの「くるくる写真塾」はこちら
第9回 まだ見ぬ道へ
第8回 旬の写真を味わう
第7回 ライドイベントのススメ
第6回 アングルのはなし
第5回 ロケーションハンティング
第4回 ボケとピントのはなし~その2~
第3回 ボケとピントのはなし~その1~
第2回 “自撮り”派サイクリスト
第1回 ようこそ「くるくる写真塾」へ!

<一口メモ>

壁を被写体として意識して撮影していくと、めいめい気になる壁のタイプには、好みや個性が出てくるものです。その傾向は、そのまま自分の好む写真を知ることに繋がります。また、壁の写真を、作例のように正面から正対して撮ることは、技術的にも何ら難しいことではないので、臆せずどんどん壁写真を撮りましょう。壁との出会いから知った、自分の写真の好みや傾向は、それ以外の写真をとるときにも活きてきますので。